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想像と対話から始まる「すべての人にやさしい世界」への第一歩「WATCH 2024」上映イベント開催レポート

想像と対話から始まる「すべての人にやさしい世界」への第一歩「WATCH 2024」上映イベント開催レポート

「障害者差別解消法」により、2024 年4月から民間業者にも合理的配慮の提供が義務化された。合理的配慮とは、障害の有無に関係なく、すべての人々が平等に社会生活を送れるようにするために日常生活に存在する様々な障壁を取り除くための措置である。しかし一口に「障壁を取り除く」と言っても、実際にどのようなアクションを起こせばいいのか?

2024年7月4日(木)、このテーマについて映画上映と対談を通して参加者全体で考えるイベント「Leave No One Behind ~すべての人にやさしい世界を実現するために~」が行われた。本イベントは日本映像翻訳アカデミー(JVTA)が主催、東京外国語大学が共催で開催するイベント「WATCH 2024の一環である。

「WATCH 2024」は、語学や社会問題に興味を持つ学生が主体となって日本発のドキュメンタリー映画に英語字幕をつけ、さらに上映イベントを行うインターンシップである。今回のイベントでは、舞台演劇上の手話を目の見えない人に伝えるための音声ガイドづくりに挑戦した人々を追ったドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』(以下、『こころの通訳者たち』)を英語字幕つきで上映し、さらに字幕翻訳に携わった学生と有識者での対談を実施。さらに、『こころの通訳者たち』の山田礼於監督からのビデオメッセージも上映された。

『こころの通訳者たち What a Wonderful World』予告編
※本予告編の英語字幕もインターン生が制作しました。



インターン生と舞台手話通訳に関する有識者が対談「舞台手話通訳と映像翻訳は似ている」
対談のゲストは、舞台演劇に特化した手話通訳技術に関する調査を行っている、日本手話通訳学会の萩原彩子さん。「すべての人にとって住みやすい社会を実現するために、今を生きる私たちにできることは何か」をテーマに、『こころの通訳者たち』の英語字幕制作に携わった大江美羽さん(東京外国語大学4年)、平戸ゆりさん(東京外国語大学4年)、山口紗和さん(東京外国語大学大学院修士1年)、そして山信美咲さん(東京外国語大学2年)と共に意見交換を行った。

萩原さんは筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターの助教で、手話通訳学会にも所属。演劇における手話通訳(舞台手話通訳)に関する研究を行っており、『こころの通訳者たち』の劇中に登場する舞台手話通訳者を追うドキュメンタリー『ようこそ舞台手話通訳の世界へ』の監修も担当している。

対談冒頭、学生から『こころの通訳者たち』の感想を問われた萩原さんは、「最初に舞台手話通訳に音声ガイドをつけたという話を聞いた時、だいぶ無謀なチャレンジだと思った」と答えた。しかし、萩原さんはそう思ったことを後に反省したという。

「実際に映画を見ると、チャレンジすることのポジティブさが伝わってきました。『できるかできないか』という考えではなく、『やってみないと分からないからやってみよう』というポジティブさです。無謀なチャレンジだと思った私は、最初から諦めていたのかもと反省をしました。分かろうとすること、そして伝えたいと思うことは、通訳や翻訳の原点です。完璧に伝えられないならやめたほうがいいと思わず、チャレンジすることが必要だと映画を見て改めて思いました」(萩原さん)

対談では舞台手話通訳の仕事や舞台手話通訳者になるための過程、国内外における舞台手話通訳の広がりについてなどを、学生が萩原さんに質問する形で進行。萩原さんによると、舞台手話通訳はまだ日本で公的に学べるところがなく、自助努力に頼っているのが現状だという。また、技術を磨くこと自体の難しさがあることや、多様な分野で活躍できる手話通訳者の養成が必要であることなど、現在舞台手話通訳の世界が抱えている問題を解説してくれた。

また、萩原さんは今回『こころの通訳者たち』に英語字幕翻訳がつけられたことを受けて、舞台手話通訳と映像翻訳の類似性にも言及した。

手話は「見る言語」であり、演劇も舞台を見て楽しむものであるため、舞台手話通訳には「手話を優先して見てほしいとき」と「舞台上の動きを優先して見てほしいとき」を判断し、手話を出すタイミングを計る必要がある。映像を楽しみながら内容の理解ができる字幕を作るということと、舞台の内容を手話に目を向けてもらえる範囲内で伝えるという点で、「映像翻訳と舞台手話通訳には共通点があると以前から感じていた」と萩原さんは語った。この萩原さんの話を受け、大江さんは「時間内に収めることや、誰が話しているのかを明確化することにおいて、舞台手話通訳と字幕翻訳は確かに似ていると感じた」とコメント。また山口さんも「単なる言語や意思疎通ではなく、中身まで伝えることが大切だと実感した」と語った。『こころの通訳者たち』の字幕翻訳を経験したからこそ、2つの類似性を実感している様子だった。

様々なケースを想像し、できることから取り組むことがやさしさの第一歩
そしてイベントのテーマである「すべての人にとってやさしい世界を実現するためには」について学生に問われると、萩原さんは次のように考えを述べた。

「『多様な人がいる』ということを、どれだけ想像できるかがやさしさの第一歩だと思います。音声だけではアクセスが難しい人がいるかもしれない。階段だけではアクセスしづらい人がいるかもしれない。そういった想像ができれば、そこに向けたアクションができるようになります。人は多様であるということを知っていることが、やさしさの第一歩だと思います。
そして想像するだけでなく、それを考えているということを表に出すことも必要。『この方法でアクセスが難しい人はいますか?』と、対話の姿勢を見せることも大切です」(萩原さん)

『こころの通訳者たち』でも、目の見えない人、耳の聞こえない人、舞台手話通訳者、音声ガイド制作者、そしてプロジェクトに関わるすべての人が、何度も対話を重ねる姿が映し出されていた。障がいがある人が「この方法だと私はアクセスしづらい」と意思を表明すること、そしてそれを受け「ではこういう方法はどうですか?」と一緒に考えること。すべての人にやさしい世界を目指すには、その両方が大切なのだと知る対談となった。

今回のイベントは東京外国語大学のプロメテウス・ホールで行い、さらにその様子がZoomでライブ配信された。また萩原さんのアドバイスにより、急遽UDトーク(音声認識技術を使って会話・スピーチをリアルアイムに文字化するツール)の使用も決定。日本語ネイティブではない参加者にも映画の内容を伝える英語字幕、遠方に住んでいて会場に来られない人のためのオンライン配信、そして聴覚障がいのある人のためのUDトークと、結果的に「様々な障壁を取り除くために、今の自分たちができること」を詰め込んだ形での開催となった。想像力を働かせ、できることがあるか対話を重ね、そして可能な限り取り組んでみること。それを体現した本イベントは、まさに「すべての人にとってやさしい世界の実現」に繋がる第一歩となったに違いない。

◆WATCH 2024: For a Sustainable Future公式サイトは▶コチラ

最後は企画担当者と萩原さんで記念写真!


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