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法改正、AIの普及…これからの「映像のバリアフリー化」で求められること

法改正、AIの普及…これからの「映像のバリアフリー化」で求められること

映像のバリアフリー化が加速している。

映像のバリアフリー化とは、外国語の映像に日本語字幕や吹き替えをつけるように、日本語の映像に見えにくい、聞こえにくい人が楽しめるためのツールを付与することだ。主にセリフや音の情報を文字にしていれる「バリアフリー字幕(字幕ガイド、クローズドキャプション)」と、情景や人物の動き、表情などを音声にして補足する「音声ガイド(解説放送)」がある。JVTAは2011年にNPO メディア・アクセス・サポートセンターとの共催でバリアフリー講座(現・現メディア・アクセシビリティ科)を開講。きっかけはJVTAの代表である新楽直樹が2008年に「CityLights(シティ・ライツ)映画祭」に参加したことだった。同映画祭ではすべての作品でバリアフリー上映をされており、JVTAが主軸にしている映像翻訳との親和性の高さと今後のニーズの増加を見越してスタートした。(https://jvtacademy.lpf.jp/blog/tippingpoint/2010/04/#entry-232)当時の映画館でのバリアフリー上映は一部の作品に限られた時間帯での対応があるだけで、特に音声ガイドはコストや制作の手間の問題もあり、あまり普及していなかった。

それから10年以上が経過し、映像のバリアフリー化は広く普及しはじめた。その背景には法改正がある。2021年5月には、障害者への合理的配慮の提供を民間の事業者にも義務付ける、障害者差別解消法の改正法が成立(2024 年4月1日施行)。さらに、2022年5月に障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が公布・施行され、国や地方自治体の施策として情報取得に役立つ機器の開発・普及・利用の促進、防災や緊急通報の体制整備などが義務となった。企業にとっても映像のバリアフリー化は急務となっているのだ。

現在映画館では、スマートフォンやタブレット端末で音声ガイドを聞けるアプリや映画館でレンタルする字幕メガネなどといった機器の普及により、大手の配給会社の主な新作映画がバリアフリー化に対応している。また、テレビ放送では番組だけでなく、CMでも字幕を目にするようになった。コロナ禍の巣籠り需要で一気に普及した動画配信サービスでも、バリアフリー字幕や音声ガイド付きで鑑賞できる作品が増えており、JVTAでもさまざまなニーズに対応している。長編アニメーション映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』(柴山智隆監督)のNetflix配信の音声ガイド制作時には、映画『AKIRA』の鉄雄やアニメシリーズ『幽☆遊☆白書』の主人公・浦飯幽助役などで知られる声優、佐々木望さんがガイドのナレーションを担当し多くの人が楽しめるツールとして注目された。また、短編映画の祭典「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」(SSFF&ASIA)でも2022年からバリアフリー上映を導入し、JVTAが制作を手掛けるなどバリアフリー字幕や音声ガイドを身近に利用できる機会が確実に増えている。

AIの発展もバリアフリー化加速の一因と言えるだろう。字幕の自動書き起こしや自動音声によるガイドの作成も可能になったいま、制作の現場での利用も進んでいる。

しかし、AIだけでバリアフリー化を担うことは不可能だ。バリアフリー化の基本は利用者を常に慮ることにあるからだ。映像に映っているものや流れる音やセリフを深く理解し、どの情報をどのように伝えるかを精査するには人間の深い考察が不可欠となる。先日、JVTAのサマースクール「映画監督と考える! グッとくる日本語字幕ガイド・音声ガイド2」でもこれを実感する一コマがあった。

この日は映画『紋の光』の安井祥二監督が登壇。寡黙な江戸切子職人の清彦(片岡鶴太郎)の取材に訪れたライターの優里(木村文乃)と息子の和真(岩本樹起)との交流を描く。安井監督は、伝統工芸としての江戸切子を知ってもらいたいと自らも江戸切子について学び撮影に臨んだ。この作品を通して子どもと伝統工芸のそれぞれの個性や多様性を描きたかったという。同作は2024年のSSFF&ASIAでバリアフリー上映された。安井監督の作品のバリアフリー化は今回が初めてだ。監督はガイドの表現に撮影の意図や俳優の演技がきちんと現れていて感動したと語る。

例えば、街並みの風景を映したシーンでは江戸切子の文様を意識して撮影した建物や遊具の幾何学模様や三角模様について描写する音声ガイドがあったほか、職人がガラスを研磨するシーンではその音情報の字幕に「三番掛けの音」などの専門用語が敢えて使われていた。ガイドの制作者もまた監督の想いを感じて江戸切子について学び、専門家が見ても違和感がない表現で伝えようと努めたのだ。音声ガイドでは、「清彦が優里の視線を受け止める」「和真が優里の手を握りかえす。優里がやわらかいまなざしを向ける」「テーブルライトの灯りがほのぐらく包んでいる」「和真が目をまんまるくする 清彦がガラスをかかげて 片方の口角をあげる」などの言葉が印象に残ったという。

「芝居を分かっていないと出てこない表現だと感じました。撮影現場では演者に『彼女の芝居を受けて動いてください』といったディレクションをすることがあります。それと同じような感覚をガイドの制作者の方も持っていることがすごいと思いました。無骨な職人と子どもの心の交流、親子の心情を伝える演技や光の表現など、私が撮影の時に込めたこだわりを繊細な表現でガイドしてくださったのが嬉しかったですね」(安井祥二監督)。

映像には作り手のあらゆる想いがこめられている。それを正しく解釈し、視聴者にそのまま伝えることが真のバリアフリー化であり、それはまだAIが網羅できる範囲ではない。AIの発展による作業の効率化を図りながらも、最終的には人間の想いが不可欠なのは、外国語から訳す映像翻訳と同じだ。JVTAはこれからもAIや機器をうまく活用しながらさらにバリアフリー化の普及を進めていきたい。

★『紋の光』はShort Shorts Film Festival & Asia channelの公式YouTubeチャンネルで公開中。

ショートフィルム『紋の光』本編(音声ガイド版)

ショートフィルム『紋の光』本編

※多言語とバリアフリー字幕を選択して視聴することができる

★メディア・アクセシビリティ科 「バリアフリー字幕」「バリアフリー音声ガイド」

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