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AIが台頭する今、翻訳者が身につけるべきスキルとは?

AIが台頭する今、翻訳者が身につけるべきスキルとは?

翻訳者に求められるのは語学力だけではありません。

正しい情報を調べ、作品全体の流れを把握し、前後の情報との繋がりなどを翻訳者自身が理解した上で最も的確な表現に訳すのがプロの仕事です。どんなにAIが発達してもこれは的確なスキルを持って取り組む翻訳者だからこそなせる業なのです。こうした丁寧な取り組みを怠ると、特に映像翻訳の場合は字数制限に囚われて、意味が分からない文章になりがちです。

特にドキュメンタリー番組の翻訳には「調べものが大変だ」というネガティブなイメージを抱いている方もいるかもしれません。「調べものをしないといけない」ではなく「調べものをすれば、より自信を持って訳せる」と考えてみたらどうでしょうか? 調べものをすることで訳文は大きく変わります。根拠を示すリサーチの申し送りがクライアントの信頼に繋がるのです。プロの調べものとは?「ロジカルリーディング力強化コース」主任の山根克之講師が具体的に解説します。

<何を調べるべきか知る>

次の英文を読んでみてください。星の一生について書かれた文章から1文だけ取り出してみました。

When a star runs out of hydrogen, it’s nuclear furnace fails and the star swells up to become a red giant star.

https://wonderdome.co.uk/the-life-cycle-of-stars-in-januarys-sky

「水素が尽きると、原子炉が不具合を起こし、星は膨張して赤い巨大な星になる」と訳したとしたらツッコミどころだらけになります。まずここで言う「原子炉」とは何でしょうか?星の中に人工物が存在するはずがありません。また「星が赤い巨大な星になる」という表現も「星が星になるって何?」という疑問を残します。

まず原子炉の問題を解決しましょう。「星の内部」「核」「水素」の3語で検索して調べると恒星の内部では水素の核融合が起きていることが分かります。これを原子炉に例えているわけですね。それから赤い巨大な星については、特別な名前があるのかなと思って調べれば「赤色巨星」という言葉がすぐに出てきます。ここまで来たら、「水素がなくなると核融合が行われなくなって赤色巨星という状態になるってこと?」くらいの仮説を立てて、その仮説が合っているかどうか調べます。

「水素」「尽きる」「赤色巨星」の3語で検索してみます。国立天文台が運用するアルマ望遠鏡のサイトには、中心部にある水素を核融合反応で燃やし尽くした星は大きく膨らみ、赤くて明るい赤色巨星に進化する旨が書かれています。

https://alma-telescope.jp/news/doublestar-202002

ここまでで分かったことを念頭に入れて訳せば、次のようになります。

「星は燃料となる水素を核融合で燃やし尽くすと、大きく膨らみ、赤色巨星となります」

ただ数字の裏取りをしたり、日本語表記を確認したりするだけが調べものではありません。調べものはやらされるものでもなければ、どれだけ調べたかアピールするために行うものでもありません。大事なのは「確かな根拠に基づいて自信を持って訳したい」「視聴者に疑問を与えないように訳したい」という思いを持ち続けること。そうすれば何をどこまで調べるべきかというラインは見えてくるでしょう。

ロジカルリーディング力強化コースは、英語で読んだ内容を頭の中で整理し、自分の言葉(日本語)で再構築して説明する力(=ロジカルリーディング力)を養う方法を毎回さまざまな角度から考えていきます。今回の問題のような調べものを生かした解釈については、全8回のうち、第5講の「背景の理解」で学びます。

AIの台頭が加速する今だからこそ、映像翻訳者としての基礎体力を鍛えることが必要です。プロの翻訳者の思考と技をぜひ身につけてください。

(Text by ロジカルリーディング力強化コース 主任講師 山根克之)

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