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明けの明星が輝く空に 第147回:特撮俳優列伝27 小林昭二

明けの明星が輝く空に  第147回:特撮俳優列伝27 小林昭二
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昭和のエポックメイキング的な特撮テレビ番組といえば、『ウルトラマン』と『仮面ライダー』であることに異論はないだろう。小林昭二さんはその両作品において、主要キャストとしてレギュラー出演した、非常に希有な経歴を持つ俳優だ。
 

小林さんが『ウルトラマン』で演じたのは、科学特捜隊の隊長、ムラマツキャップ。小林さんは小柄で、年齢もまだ30代後半と若かったが、リーダーとしての威厳にあふれるムラマツを好演した。実際、撮影現場においても、若い俳優たちをまとめ、引っ張っていく存在だったようだ。
 

それがよくわかるエピソードがある。まだ『ウルトラマン』の撮影が始まって日が浅い頃、特撮班が撮影した映像を隊員役の出演者たちとアフレコスタジオで見たときのことだ。初めて目にした『ウルトラマン』の特撮映像の素晴らしさに、小林さんを含めた全員が圧倒されていた。小林さんはそのとき、スタジオの外にみんなを集め、一語一語かみしめるようにこう言ったそうだ。「これは子供だけの番組じゃないぞ。あの素晴らしい映像に負けない芝居を、オレたちもしようじゃないか。」「リラックスするのはかまわんさ。でも、お芝居はちゃんとやろうな、ちゃんと。」それまで現場ではしゃぐこともあった若い俳優たちは、その言葉に心を入れ替え撮影に臨むようになったそうだ。
 

小林さんは『ウルトラマン』以外にも、ウルトラシリーズの作品に出演しているが、それぞれ異なるキャラクターを見事に演じ分けている。シリーズ1作目の『ウルトラQ』、第19話「2020年の挑戦」(https://www.jvta.net/co/akenomyojo125/)で演じたのは、航空自衛隊の実直な天野2等空佐。謎の飛行物体確認のため向かわせた哨戒機が爆発する事件が発生し、それを上層部の会議で報告するのだが信じてもらえない。そのときの、憤慨しつつも危機感を募らせる引き締まった表情が印象的だ。
 

さらに、小林さんはその人柄に惚れたという円谷プロのスタッフの依頼で、『ウルトラマン』に続く『ウルトラセブン』、『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA』にもゲスト出演している。それぞれ順番に、平凡で少し情けないサラリーマン、怪獣に襲われ記憶喪失になってしまう貨物船の船長、地球への帰還前に合成生物兵器が憑依してしまった宇宙飛行士を演じている。
 

中でも印象的なのは、『帰ってきたウルトラマン』第13話「津波怪獣の恐怖 東京大ピンチ!」と第14話「二大怪獣の恐怖 東京大龍巻」の2作で演じた高村船長だ。記憶喪失後の彼は魂の抜け殻のように目に力がなく、いろいろ問いかけられると不安そうな表情を浮かべるばかり。そんな高村が、海辺にたたずみ航行する船を目で追う姿は胸を打つ。記憶を失っていても、船を見れば何か感じるものがあるのか。その心の内は推し量ることができないが、もの悲しそうな横顔がなんとも言えない。
 

そして小林さんは、『帰ってきたウルトラマン』と同じ1971年に始まった『仮面ライダー』に立花藤兵衛役で出演を果たす。藤兵衛は、主人公である本郷猛や一文字隼人の理解者であり協力者で、“おやっさん”の愛称でファンに親しまれた名キャラクターだ。『仮面ライダー』を担当した東映の平山亨プロデューサーが小林さんに出演を依頼したのは、その人間性や子供番組に対する姿勢に共感したからだという。小林さんは若手俳優に演技指導をすることもあったそうだが、これは小林さんの面倒見の良さと同時に、番組作りに妥協しないプロフェッショナリズムを表していると言えるだろう。それもあってか『仮面ライダー』のあと、『仮面ライダーV3』、『仮面ライダーX』、『仮面ライダーアマゾン』、そして『仮面ライダーストロンガー』と、主人公/ヒーローが変わる中、小林さん演じる藤兵衛だけは変わらず登場し続けた。
 

もちろん、演技面での評価も高かったに違いない。気さくで人望も篤く、ときにひょうきんな顔も見せるが、敵に対してひるまない頼もしさも兼ね備えた立花藤兵衛という役柄は、“大根役者”にはとうてい務まらない。仮面ライダーの相棒とも言うべき滝和也を演じた千葉治郎さん(https://www.jvta.net/co/akenomyojo99/)は、小林さんの演技を見てそのテクニックを盗んだそうだ。また、アフレコにおける声の存在感は別格だったというが、それもそのはず。小林さんは声優としての実績もあった。なにしろ、あの西部劇の大スター、ジョン・ウェインの吹き替え役として活躍していたのだから!
 

最後にもうひとつ、特撮界における小林さんの“偉業”について触れておこう。それは、ウルトラと仮面ライダー、両シリーズに加え、ゴジラシリーズ、ガメラシリーズにも出演したことだ。僕はこれを「特撮グランドスラム」と呼んで称えたい。これら4シリーズは、まさに特撮界の四大タイトル=グランドスラムだ。僕の知る限り、その達成者は小林さんただ一人。まさに、唯一無二の存在なのである。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】物事を評論するのに参考になればと、『おいしい味の表現術』という本を読んでいます。「コク」や「キレ」の正体とか、「生」の異なる使われ方など、言葉の持つ意味が追求されていて、非常に興味深い。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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