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明けの明星が輝く空に 第148回:『シン・ウルトラマン』を観る前に

明けの明星が輝く空に  第148回:『シン・ウルトラマン』を観る前に
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5月13日に公開される“空想特撮映画”『シン・ウルトラマン』の特報映像や予告映像に、オールドファンにはおなじみの怪獣が2体登場する。『ウルトラマン』第3話「科特隊出撃せよ」のネロンガと、第9話「電光石火作戦」のガボラだ。子供のころから知っている怪獣が登場するのは、新鮮味は乏しくとも安心感がある。
 

それにしても、なぜネロンガとガボラなのだろう。今年の2月に発表された、ネット上でのウルトラマン人気怪獣・宇宙人ランキングを見ても、それぞれ19位と32位でしかない。ただし『シン・ウルトラマン』の企画・脚本は、特撮文化をこよなく愛する庵野秀明監督だ。当然、何かしらこだわりがあるに違いない。
 

その理由に思いを巡らせたとき頭に浮かぶのは、両怪獣とも着ぐるみの中に入るスーツアクターが中島春雄さん(https://www.jvta.net/co/akenomyojo92/)だったことだ。中島さんは初代ゴジラを始め、それ以降のゴジラも演じ続けた特撮界のレジェンドである。
 

中島さんはゴジラを演じるにあたり、動物園に通ってクマなどの動きを観察したことが広く知られているが、その成果は二足歩行のゴジラに比べ、四足歩行のネロンガとガボラの動きにより顕著に現れているように思う。特に印象的なのが、ウルトラマンを目の前にした時のガボラのリアクションだ。威嚇するように体を上下にゆするものの、飛びかかるのを躊躇しているような動き。興奮と警戒心が入り混じったガボラの複雑な感情が、見事に表現されている。
 

個人的に好きなのは、劣勢に立たされたガボラが横に寝転がり、飛びかかってくるウルトラマンの攻撃をかわそうとするところだ。それはもはや、役者が撮影の段取りに合わせて動いたのではなく、ガボラという生き物がとっさに反応したようにしか見えない。仰向けになれば足で相手を跳ねのけたり、牙や爪で反撃することもできる。実際、ネコ科の動物はそうやって身を守るようだ。ガボラの動きも理に適っている。
 

一方のネロンガは、鼻先の角を折られたときのリアクションがいい。ウルトラマンがそれをつかみ、高く上げた膝に叩きつけると、まるでノックアウトパンチを食らったようにガクンと崩れ落ちる。そして鼻先を地面にこすりつけるようにしてグルグル回り出すのだが、この動きなど「なるほど、角を折られると方向感覚がなくなるのか」と妙に納得させられてしまう。
 

中島さんのすごさは、こういったアクションを重い着ぐるみに入ってやってみせたことだ。ウルトラマンのスーツアクターだった古谷敏さんが試しにネロンガの着ぐるみに入ってみたところ、重くて立ち上がることもできなかったという。中島さんの桁違いな体力がうかがえるエピソードだ。
 

中島さんと古谷さんによる立ち回りは、二人の関係や撮影の裏側を知ると、また違った味わいがある。二人は、東宝のいわゆる大部屋俳優として、先輩後輩の間柄。ゴジラを含め数々の怪獣を演じてきた中島さんは、いわば“歴戦の勇者”だ。ウルトラマンとの立ち回りをどのようにするか、監督に任されるほどの人だった。かたやアクションの経験がほとんどなかった古谷さんは、子どものころ昆虫採集のために虫を殺すのもかわいそうで嫌だったという心の優しい青年。実はウルトラマンとして毎回怪獣を殺すのも気が引けたため、そうならない話があってもいいのではとスタッフに提案したぐらいだった。(その優しさが、のちの名作誕生のきっかけとなった。)
 

慣れないマスクとスーツを装着しての撮影は苦労の連続だったという古谷さんを、中島さんは励ましたり熱心に指導してくれたりしたそうだ。古谷さんは撮影初期のころ、スタジオで釘を踏み抜いてしまったことがあり、その傷が治らないままネロンガとの格闘シーンに臨んでいる。古谷さんの痛む足のことを知っていたか不明だが、中島さんは力いっぱいぶつかってきたという。中島さんとの立ち回りでは打ち身や擦り傷が絶えなかった古谷さんは後年、「対戦怪獣でこれ以上怖い人はいなかった」と語っている。形だけ、うわべだけの演技では、真に迫るアクションはできないのだろう。場数を踏んだ中島さんならではの渾身の立ち回りに、古谷さんも教わるところがあったのではないだろうか。
 

『シン・ウルトラマン』では、ウルトラマンも怪獣もCGで描かれる。そのアクションと、半世紀以上前に二人の役者が体を張って演じたアクションを見比べてみるのも、面白いかもしれない。5月13日が、待ち遠しい。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】MLBの現地実況が日本語を使ったりすると、かえって聞き取れなかったりします。「キュンです」なんて言い方、僕だったら「この英語は一体なんだ?」とずっと悩み続けてたんじゃないかなあ。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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