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代表/新楽直樹のコラム「Tipping Point」連載20年 特別編(1) 尽きることのない想いを、エッセーに託す

代表/新楽直樹のコラム「Tipping Point」連載20年 特別編(1) 尽きることのない想いを、エッセーに託す
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「Tipping Point」の連載を開始したのはインターネットが日常化し始めた2002年。スクール・メルマガの配信と共にスタートし、これまで200本以上のエッセーを綴りました。20年の節目を迎える今、「なぜ書くのか」「自立した職業人であることを目指す皆さんに何を伝えることができるのか」を、初心に立ち返って見つめ直します。

 

■拭いきれないほどの“自分の未熟さ、弱さ”と向き合う
「Tipping Point」を書こうと思ったきっかけがある。
 
自分の頭の中で起こったことだから、大した話ではない。だから誰にも話したことはなかったが、今日は綴ってみたい。
 
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)は1996年10月、東京・代々木八幡にある木造の借家を無理やり「校舎」に仕立ててスタートした。幸いにも多くの受講生が開校と同時に門をたたいてくれた。その頃に出会った修了生の名前を映画館やテレビドラマの最後に目にすると、何とも言えない幸せな気持ちになる。
 
そう言うといい時代だったように聞こえるかもしれないが、問題は山積みだった。最大の原因は私がスクール経営者として未熟であったことだ。受講生や修了生のためにすべきこと、できることは数えきれないほどあったはずなのに、事業者として大事なことには気づかず、トンチンカンなことばかりをやっていた。今でも未熟であることに変りはないが、それでも当時を振り返ると恥ずかしくなる。
 
そんなある年の冬、東京が大雪に見舞われた。当時、平日のクラスは夜か午後、土曜日だけは午前中にクラスを開講していた。その日は土曜日で、授業に加えて午後から次期募集のための説明会が組まれていて、多くの方々の来校が予定されていた。交通機関に影響が出ていたこともあり、心配だったので早めに家を出た。代々木八幡に着いたのは7時頃だ。
 
土曜の早朝ということもあってまだ人出がない。そのため、スクールの周辺の歩道には10センチほどの雪が積もっていて、見えている路面部分はカチカチに凍っていた。特に山手通りから校舎までの50メートルほどの上り坂は一歩踏み出すのもたいへんだ。午後の説明会に備えて一張羅のスーツ姿だった私は、雪山のような坂のおかげで校舎にたどり着いた時点で革靴をだめにしていた。
 
(どうしよう…)。まだメールが日常化していない時代だ。全員に電話して授業と説明会を延期するか、いや遠方の人はもう家を出ているかもしれない…。スクール経営者として未熟というのはこういうことだ。前日には予測できたはずなのに何もしなかった。駅で困惑する受講生、歩道で足を取られる受講生、近くまでたどり着いたのに坂で靴をだめにしてしまう来校者…。想像すると胸が苦しくなり、自分を呪った。
 
あと3時間、自分に何ができるのか――。頭から火が噴き出すほど考えた結果、至った結論は「できる限り雪をかく」。スコップがなかったので、その辺にあった板と鉄の棒を抱え、せめて坂だけでも何とかしようと外に出た。それから2時間ほどひたすら雪をかき、路面の氷を削って、人ひとりくらいが歩ける道を作った。
 
これは美談ではない。
 
スクールの経営者としてはとても情けなく、恥ずかしいことだ。ベストは、前日に延期の連絡を全員に伝えることである。なのに、そこに考えが至らなかったから、雪をかくことしかできないのだ。雪まみれになりながら自分の未熟さに涙が出そうになったが、その瞬間、心の片隅の、ほんとうに虫眼鏡で見ないとわからないくらい小さな部分に、ポッと青い火が灯ったのを感じた。
 
こんな雪の日でも、志を抱く受講生や目指す人は必ず来ると信じて疑わない自分。そのためにできることはすべてやるのだと、無我夢中で雪をかいている自分。(あぁ、これが働くということか。仕事をするということの意味なのか)。今の自分がたとえどんなに未熟であっても、事業を通じて出会った人を信じ、役に立ちたいと願う気持ちは心地いい。自分の弱さ、未熟さを認めたうえで、それが結果最善でなくても、そのために行動することはできる――。
 

そんな当たり前のことに、30代半ばになってようやく気づいたのだから情けない。だがその一方で、この仕事に出会っていなければ一生気づくことがなかったかもしれないとも思った。なぜなら、それまでの自分なら絶対に雪かきなどしていなかったはずだから。
 
その日に灯った私の中の青い炎は小さいが、熱く、今も消えることはない。
 
それにしても、予備のスーツをオフィスに備えていないなんて、プロとしてリスク管理がなっていない。汗まみれで泥のついたスーツと靴の自分を来校者はどう見ただろう。恥ずかしい。
 

■なぜ書くか、何を書くのか
さて、そんな話がなぜ「Tipping Point」を書くきっかけなのか。それは、書くことがその時その時の‘雪かき’だという想いに尽きる。JVTAで出会った人のために、できることのすべてをするという、当たり前のことをしているだけだ。
 
授業の質やサービスの質の向上、制度や設備の整備など、事業者としてすべきことを実行する以外にも、できることはある。さらに言えば、こんな自分だからできること、自分にしかできないことがある。
 
そう考えた時、(授業や説明会、ちょっとした雑談では伝えられない、でも伝えたいなぁ、きっとヒントになるのになぁ)という想いが湧き上がっていることに気づいた。言葉の技能の習得に人生の多くの時間を費やしてきた、そしてこの先もそうしていくであろう人。どこまでも学び、成長することを望む人。そんな人たちのことを想うと、私の内の青い種火は自動的に熱を帯び、かけたい言葉が湧き上がってくる。そして、私はたまたま「書くこと」を生業の一つにしてきたのだから、エッセーで伝えよう。そう決めたのだ。
 
何を書くべきか。もしもこの連載が「受講生や修了生のためになることを書こう」「私が知っていて読者は知らないであろうことを教えてあげよう」といったどこかのコラムニスト気取りで始めたものなら、とっくにそっぽを向かれて休載していただろう。
 
そうではない。「Tipping Point」で私が綴りたいは、私という人間の一部分である弱さと未熟さだ。その弱さと未熟さゆえに、私のセンサーが感知した小さな真実を書いているのだ。葛藤と後悔から抜け出せないからこそにじみ出てくる教訓、気づきから、何かを感じ取ってほしいのだ。
 
誤解を恐れずに言えば、こんなことである。「皆さんにも弱さや未熟さがあるでしょう? 正面から向き合うには勇気がいりますよね。ところが成長のヒントは、案外弱さや未熟さの中に隠れています。弱さや未熟さなんて誰にでもあるのだから、開き直ればかわいいもの。恥ずかしかったり、勇気が出なかったりするなら私を見てください。私のエッセーを読んでください。弱いから、未熟だからこそ出会える真実があり、それはきっと人生を豊かにしますよ。私が証明します」。
 
もし読者の皆さんが私のエッセーにわずかにでも共感したら、それは皆さんが本来持っていたものに気づいただけだ。だから連載のタイトルは「Tipping Point」。授業のように知らなかったことを学ぶのではなく、気づいてほしいという想いを込めた。
 
幸か不幸か、私の中の弱さと未熟さのセンサーが感じ取るものは、尽きるどころか歳を重ねるごとに増す一方だ。そして今日も、私は自分の弱さや未熟さを痛感し、自問する。「だから今、お前(自分)ができることは何なんだよ」。そしてばたばたと‘雪かき’を始めるのだ。
 
上手く伝わっただろうか。「悩んだらこのエッセーを読んで、雪かきを始めてみては?」。そう囁いていると理解してもらえたらうれしい。(特別編(2)に続く)
 

※次回は修了生から届いた「エッセーへの感想」が、私にとって得難いTipping Pointになっている話を綴ります。
 
※「Tipping Point」連載20年 特別編(2) 言葉の錬金術 ~伝えることは、学ぶこと~
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns20/
※「Tipping Point」連載20年 特別編(3) 一瞬の煌めきを見逃さない
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns21/

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Tipping Pointby 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
https://jvtacademy.lpf.jp/blog/tippingpoint/

 

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