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中島唱子の自由を求める女神 第3話「咲ちゃんの五箇条」

中島唱子の自由を求める女神  第3話「咲ちゃんの五箇条」
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中島唱子の自由を求める女神

中島唱子の自由を求める女神
Written by Shoko Nakajima 

第3話咲ちゃんの五箇条
言語の壁、人種の壁、文化の壁。自由を求めてアメリカへ。そこで出会った事は、楽しいことばかりではない。「挫折とほんのちょっとの希望」のミルフィーユ生活。抑制や制限がないから自由になれるのではない。どんな環境でも負けない自分になれた時、真の自由人になれる気がする。だから、私はいつも「自由」を求めている。「日本とアメリカ」「日本語と英語」にサンドウィッチされたような生活の中で見つけた発見と歓び、そしてほのかな幸せを綴ります。

 
ニューヨークに到着した日の夜。居候先の咲ちゃんが、紙とペンを持ってきて白い紙に一本の線を引いた。
 

「ここが五番街」その地図に東西南北を書き加えて「この、五番街を境にイーストとウエストにわかれて、ここがセントラルパーク」とメモ用紙に手書きの地図を描いた。次に長細いフランスパンのような形を描きながら、「ここがマンハッタン」そして、ブルックリン、クィーンズ、ブロンクス,スタテン島、長細いフランスパンの周りに適当な小さいあんドーナツのような円を加えた。「とにかく、絶対、ガイドブックを街の中で開いちゃ駄目よ。日本人の観光客のようにウロウロするのは危険だからね」彼女のレクチャーが続く。
 

咲ちゃんのニューヨーク攻略のための五箇条はこれだ。
1.夜の9時以降は地下鉄に乗らない。
2.ハーレムには行かない。
3.強盗にあった時のためにお財布は二つ持つ
4.決して街の中で笑顔にならない。
5.街中で地図をひろげない。お金を数えない。
この五箇条を聞いたらますます、ニューヨークが怖くなってその日の夜は不安で寝付けなかった。
 

日本でニューヨーク行きが決まった時、「観光ですら一度も行ったことないのに、一年も住むなんて無謀過ぎる。」と周囲はとても心配した。
 

確かに、写真や映画で観るニューヨークの街は、スリリングでギラギラしている。落書きだらけの地下鉄の車内の写真だけでもかなり、パンチがある。
 

日本では毎晩のようにガイドブックを熟読してニューヨークを攻略した気持ちになっていた。しかし、実際到着して、こちらにちょっと前から住む咲ちゃんの五箇条がおとぎの国のニューヨークを壊していく。
 

しかも、ガイドブックを街で開くことができないなんて、懐中電灯を持たずに夜の山道を歩くようで妙に心細い、いや、歩けない。
 

翌朝、カバンの中にはガイドブックを忍ばせてゆっくりと街を歩き出した。必要な時は、どこかのトイレに忍び込みガイドブックを開いて確認し、決して公共の場では開かない。街の地図もガイドブックから切り離してコートのポケットに入れた。どうしても道に迷った時だけ目立たない場所でこっそり確認する。周りに細心の注意を払いながら行動した。
 

到着から、二週間もしないうちに、五箇条を教えてくれた唯一の知り合いだった咲ちゃんは、家族と年明けまで旅行をすることになりニューヨークから離れた。
 

まずは住まい探しに奔走した。毎朝、日系の不動産屋さんも訪ね条件に合った部屋を見つけアポをとってもらい一人で内見に行く。住所と地図を手掛かりに内見するアパートを訪ねながら地下鉄やバスの乗り方もおぼえた。
 

東京の街よりはるかに小さな島のマンハッタン島に世界中の人たちが集まり暮らす。アパートの空室は1%だという。そして、家賃も東京以上に高い。マンハッタンのいいロケーションならルームメイトとして入居しない限り予算内のアパートが見つからない。何軒か、ルームシェアーを募集しているアパートも訪ね内見と面接をしてもらった。
 

アメリカに来るまでは一人暮らしの生活だった。ルームシェアで暮らせる自信はなかった。ましてや、契約する相手の全く知らない外国人である。何かトラブルがあった時に言葉の壁もある。
 

ホームスティやアメリカ人とのルームシェアは英語に慣れるためには魅力的ではあった。しかし、ルームシェアの相手と少ない会話を交わしただけなのに異常なほど緊張し会話にはならない。すっかり自信をなくしてしまった。数十件まわった頃には、街はクリスマスを迎えていた。咲ちゃんの五箇条を守り続けて、日が暮れると部屋に戻るようにしていた。寒さと街への緊張で数週間が過ぎてしまった。
 

ふと、顔を洗った時、洗面所の鏡で自分の顔をみた。知り合いもいない街の中で、私の顔から笑顔が消えた。人は笑わなくなると表情筋も衰えてとても寂しそうな顔になる。
 

街を知っていくうちに、危険な場所と安全な行動とがわかってくる。ハーレムも数十年前とは違い地価も高くなりだいぶ様子も変わった。
 

街への過剰な緊張がほぐれるまで時間はかかったが、やがて自然とお店の人にも笑顔で「サンキュー」と言えるようなっていた。
 

勢いで飛び出してしまい暮らしだした巨大な街ニューヨーク。そびえ立つ高層ビルの中を歩きながら、ふと上を見上げるとマンハッタンの空が小さく見えた。
 

写真Written by 中島唱子(なかじま しょうこ)
 1983年、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』でデビュー。以後、独特なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを通して自らの体と心を綴ったフォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。異才・アラーキー(荒木経惟)とのセッションが話題となる。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。その後も日本とニューヨークを行き来しながら、TBS『ふぞろいの林檎たち・4』、テレビ東京『魚心あれば嫁心』、TBS『渡る世間は鬼ばかり』などに出演。

 
 

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